中小企業経営強化税制とは、青色申告書を提出する中小企業者等が対象設備を取得し、国内で営む自社の対象事業に使い始めた場合に、即時償却(取得価額の全額をその年の経費〈損金〉にすること)または税額控除を選べる制度です。税額控除率は原則10%(資本金または出資金の額が3,000万円を超える法人は7%)。使うには経営力向上計画の認定が必要で、工業会等の証明書や経済産業大臣の確認書の申請は設備を取得する前に行わなければなりません。
「来期、新しい機械を入れよう」と考えている社長は多いでしょう。こうした設備投資に使えるのが、取得価額の全額をその年の経費にできる制度です。ただしこの制度は、買ってから調べるのでは間に合わないことがあります。手続きの一部は、設備を取得する前に済ませておく必要があるからです。
中小企業経営強化税制とは
正式名称は「中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除」です。対象設備を取得し、事業に使い始めたとき、次のどちらかを選べます。
- 即時償却:取得価額の全額を、その年の経費にできる
- 税額控除:原則として取得価額の10%を法人税額から控除できる(資本金または出資金の額が3,000万円を超える法人は7%)
たとえば1,000万円の機械を取得したとします。即時償却なら1,000万円をその年に一気に償却できます。税額控除率が10%の会社なら、計算上の控除限度額は100万円です。通常の減価償却では数年かけて少しずつ経費にしますが、この制度では「初年度に全額を償却する」か「税額から直接差し引く」かを選べます。
ただし税額控除には上限があります。この制度と中小企業投資促進税制による税額控除の合計で、その事業年度の調整前法人税額の20%までです。この上限のため当期に控除しきれなかった金額は、所定の申告手続きを行うことで1年間繰り越せます。利益が小さい年は、控除枠を使いきれないことがあります。
なお、後述するE類型の建物およびその附属設備は、扱いが異なります。即時償却は選べません。通常の減価償却に加えて、基準取得価額の15%(一定の要件を満たす特定建物等は25%)を特別償却するか、1%(特定建物等は2%)の税額控除を選びます。給与の支給額を増やす目標の達成が要件に組み込まれており、「建物も全額を経費にできる」わけではありません。
対象になる会社・設備
対象は、青色申告書を提出し、税法上の中小企業者等に該当する法人です。一般には資本金または出資金の額が1億円以下であることが基準になりますが、大規模法人に一定割合以上の株式を持たれている法人や、過去3年間の所得金額の年平均額が15億円を超える法人などは対象外になる場合があります。
設備の側にも条件があります。原則として新品で、自社の生産・販売・役務提供など、収益を得る活動に直接使うものが対象です。最低取得価額を満たしていても、本店の建物、一般的な事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設、貸付けの用に供する資産などは対象外になる場合があります。
一般的な機械や設備の導入であれば、まず確認するのはA類型かB類型です。D類型とE類型は、事業承継や大規模な拡張投資に該当する場合の類型で、当てはまる会社は限られます。対象設備は、要件に応じてA・B・D・Eの4類型に分かれます。
- A類型(生産性向上設備):旧モデルと比べて生産性が年平均1%以上向上する設備。工業会等の証明書が必要です
- B類型(収益力強化設備):年平均の投資利益率が7%以上となる見込みの投資計画に基づく設備。本社所在地を管轄する経済産業局を通じて、経済産業大臣の確認を受ける必要があります
- D類型(経営資源集約化に資する設備):M&Aを含む事業承継等を行った後に取得する設備。計画終了年次の修正ROA(事業承継等の影響を調整した収益性の指標)または有形固定資産回転率が所定の要件を満たす見込みであることについて、経済産業大臣の確認を受ける必要があります
- E類型(経営規模拡大設備等):年平均の投資利益率が7%以上となる見込みであることに加え、経営力向上および経営の規模の拡大を行うものとして確認を受けた投資計画において、その目的の達成に必要不可欠な設備です。建物を新設・増設する場合は、その建物およびその附属設備も対象に含まれます。ほかに投資の規模や売上高の伸びに関する要件もあるため、当てはまりそうな場合は中小企業庁のE類型の手引きで確認してください。建物の着工前に投資計画の確認申請が必要で、中小企業投資促進税制や少額減価償却資産の特例とは併用できません
設備の種類ごとの最低取得価額は次のとおりです。機械装置は1台または1基160万円以上、工具・器具備品は1台または1基30万円以上、建物附属設備は一の取得価額60万円以上、ソフトウェアは一の取得価額70万円以上です。E類型で新設・増設する建物およびその附属設備は、一の取得価額1,000万円以上です。
令和7年度の税制改正では、B類型の投資利益率の要件が年平均5%以上から7%以上に引き上げられ、デジタル化設備のC類型は2025年(令和7年)4月1日をもって廃止されました。
検討を始めるときは、まず次を整理してください。設備の発注日・取得予定日・使い始める予定日、資産の区分、取得価額、資本金の額、今期および数年先の利益見込み。あわせて、新品かどうか、自社の対象事業に直接使うかどうか、A・B・D・Eのどの類型に当てはまりそうかを確認します。この資料を、設備メーカー・顧問税理士・必要に応じて管轄の経済産業局へ早めに示してください。申請の時期と、即時償却か税額控除かの選択は、そこから決まります。
いちばんの注意点は「順番」と「期限」
この制度を使うには経営力向上計画の認定が要ります。原則的な順番は次のとおりです。
- 工業会等の証明書、または経済産業大臣の確認書を申請し、取得する
- その書類を添えて経営力向上計画を申請し、認定を受ける
- 認定後に設備を取得し、対象事業に使い始める
このうち、必ず設備の取得前に行わなければならないのが1です。証明書・確認書の申請には、例外がありません。
2の計画認定も原則は取得前ですが、こちらには例外があります。事業承継等を伴わず、E類型にも該当しない設備であれば、設備の取得日から60日以内に申請書が担当省庁へ到達するよう提出することで、取得後でも計画の認定を受けられます。「60日以内に認定を受ける」という意味ではありません。事業承継等を伴う設備を取得する場合と、E類型を活用する場合には、この例外は適用されません。
つまり「発注してしまったから、もう使えない」とは限りません。発注日と、税務上の取得日は同じとは限らないからです。税務上の取得日は、引渡しや検収の状況、契約内容、取引の実態を踏まえて判断されます。すでに発注している場合は、まず納入予定日と検収条件を確認したうえで、税務上の取得日について顧問税理士に相談してください。
とはいえ、証明書や確認書の取得には日数がかかり、しかも申請は設備の取得前でなければなりません。購入を決めた段階で動き出すことが、制度を利用できるかどうかの分かれ目になります。
適用期限は令和9年(2027年)3月31日までです。この日までに設備を取得し、国内で営む自社の対象事業で使用を開始している必要があります。
即時償却と税額控除、どちらを選ぶか
- 即時償却:その年の税負担を大きく減らせます。ただし翌年以降の償却費はなくなります。経費にできる総額が増えるわけではなく、前倒しにする性格です
- 税額控除:税金そのものを減らせます。償却費も通常どおり残ります。ただし調整前法人税額の20%という上限があります
どちらが有利かは、その年と数年先の利益見通し、そして今期の法人税額で変わります。顧問税理士とよく相談してください。なお、E類型の建物およびその附属設備は即時償却を選べません。
本記事は制度の概要を整理したものです。具体的な税額計算や適用可否の判断は、顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。
まとめ
- 原則として、設備の全額を初年度の経費にできる(即時償却)か、取得価額の10%・7%を税額控除できる
- E類型の建物およびその附属設備は例外で、特別償却15%・25%または税額控除1%・2%
- 税額控除には調整前法人税額の20%という上限があり、この上限のため当期に控除しきれなかった金額は1年間繰り越せる
- 対象は青色申告の中小企業者等だが、資本金や株主構成、所得の規模によっては対象外になる場合がある
- 使うには経営力向上計画の認定が必要。証明書・確認書の申請は設備の取得前が必須(例外なし)
- 計画認定も原則は取得前。取得日から60日以内に申請書が到達すれば取得後でも認定を受けられるが、事業承継等とE類型には適用されない
- 適用期限は令和9年3月31日まで(取得と、対象事業への使用開始まで)
設備投資は、買う前の段取りで、使える制度の幅が変わります。
よくある質問
Q1. 中小企業経営強化税制とはどんな制度ですか?
青色申告書を提出する中小企業者等が対象設備を取得し、国内で営む自社の対象事業に使い始めた場合に、原則として即時償却または取得価額の10%(資本金または出資金の額が3,000万円を超える法人は7%)の税額控除を選べる制度です。E類型の建物およびその附属設備は例外で、特別償却15%・25%または税額控除1%・2%となります。
Q2. 経営力向上計画の認定はいつ取ればよいですか?
原則として設備を取得する前です。例外として、事業承継等を伴わずE類型にも該当しない設備であれば、取得日から60日以内に申請書が担当省庁へ到達するよう提出することで、取得後でも認定を受けられます。ただし工業会等の証明書・経済産業大臣の確認書の申請は設備の取得前に行う必要があり、こちらには例外がありません。手続きには日数がかかるため、設備の購入を決めた段階で始めてください。
Q3. 対象になる設備は何ですか?
原則として新品で、自社の収益を得る活動に直接使う機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、一定のソフトウェアなどです。最低取得価額は、機械装置が1台または1基160万円以上、工具・器具備品が30万円以上、建物附属設備が60万円以上、ソフトウェアが70万円以上です。E類型では新設・増設する建物およびその附属設備も対象となり、こちらは一の取得価額1,000万円以上です。本店の建物、一般的な事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設、貸付用の資産などは対象外になる場合があります。類型はA・B・D・Eの4つで、デジタル化設備のC類型は2025年4月1日に廃止されました。
Q4. 即時償却と税額控除はどちらが有利ですか?
即時償却は経費にできる総額が増えるわけではなく、償却を前倒しする制度です。税額控除は法人税額そのものを減らせますが、調整前法人税額の20%という上限があります。今期と翌期以降の利益見込み、資金繰り、今期の法人税額を確認したうえで、顧問税理士と決めてください。なおE類型の建物およびその附属設備は即時償却を選べません。
Q5. 適用期限はいつまでですか?
令和9年(2027年)3月31日までに設備を取得し、国内で営む自社の対象事業の用に供することが条件です。
設備投資の前に、一度ご相談ください
RMCビジネスラボでは、認定経営革新等支援機関として経営力向上計画の策定支援を行っています。どの類型が使えるか、計画にどう書けば認定が通るか、設備の発注前に整理するお手伝いです。税制だけでなく、補助金の加点や金融支援の活用も合わせて確認します。
設備投資の前に自社の数字を一度棚卸ししておきたい方には、経営健康診断(BS/PL分析・改善余地の整理)から始める方法もあります。そこで見えた課題を継続的に追う場合は、月1回の経営定期健診へつなげられます。料金は企業規模や支援範囲によって異なるため、サービス一覧をご覧いただくか、初回相談でご案内します。
出典・参考資料
- 国税庁「No.5434 中小企業経営強化税制」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5434.htm
- 中小企業庁「中小企業経営強化税制」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kyoka_zeisei.html
- 中小企業庁「経営力向上計画の申請について」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/ninteisinsei.html
- 中小企業庁「経済産業大臣による確認書について(D類型:経営資源集約化に資する設備)」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kakuninsyo_d.html
- 中小企業庁「経済産業大臣による確認書について(E類型:経営規模拡大設備等)」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/kakuninsyo_e.html
- 中部経済産業局「経営規模拡大設備等(E類型)の確認申請および報告について」 https://www.chubu.meti.go.jp/c13keiei/keieikyouka/keieikyouka_e.html
- 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和8年度税制改正対応版)」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/pdf/tebiki_zeiseikinyu.pdf
著者:日置 尚義
中小企業診断士・認定経営革新等支援機関
RMCビジネスラボ(https://rmcbl.net/)
