仕入先の値上げ要請にどう回答するか|取適法で求められる協議・説明・記録の実務

取適法の対象取引では、仕入先からコストの変動等を理由に代金額の協議を求められた場合に、協議に応じないまま、または相手が求めた事項について必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に価格を決めることが禁止されています。要請額を全部または一部受け入れないことだけで直ちに違反となるわけではありませんが、相手の根拠を検討したうえで自社の試算との差異を説明し、回答内容と協議の経過を記録しておくことが実務上重要です。

仕入先からの値上げ要請について影響額を計算し、「提示された額をそのまま受け入れるのは難しい」という結論になったとします。次に行うのは、回答の仕方を決めることです。

ここで、2026年から変わった点を一つ押さえておきます。要請額の全部または一部を受け入れないこと自体は、それだけで違反になるわけではありません。しかし、協議に応じないまま、または協議において相手から求められた事項について必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に価格を決めることは、法律上の禁止行為になりました。

この記事では、自社の取引が対象になるのか、何が禁止されたのか、そして実務としてどう回答するのかを整理します。

なお、影響額そのものの計算手順は別の記事で扱っています。

仕入先から「値上げのお願い」が届いたら|年間影響額と価格反映率の計算

まず、自社の取引が対象になり得るかを4つの点から一次判定する

2026年1月1日、従来の下請法が改正されました。法律上の題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められ、略称は「中小受託取引適正化法」、通称は「取適法」です。従来の「親事業者」は委託事業者、「下請事業者」は中小受託事業者という呼称になりました。

自社の取引が対象になり得るかは、次の順で見ます。

1. 2026年1月1日以降に発注した取引か。

公正取引委員会・中小企業庁のテキストは「改正法の施行期日は、令和8年1月1日であり、令和8年1月1日以降に行う製造委託等について、適用されることになる」としています。継続的な取引でも、この日以降の発注が対象になります。

2. 相手に仕様・内容等を指定して依頼しているか。

ここが最初の分かれ目です。規格品・標準品をそのまま購入することは、原則として「委託」には当たりません。 一方、規格品であっても仕様等を指定して製造を依頼すれば「委託」に当たり得ます。テキストが挙げる例は、依頼者の刻印を打つ、ラベルを貼付する、社名を印刷する、規格品の針金やパイプ鋼材等を自社の仕様に合わせて一定の長さ・幅に切断する、といった作業をさせる場合です。契約書の形式が請負か売買かは問われません。

3. その依頼が、法律の定める5つの類型に当たるか。

製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託です。ただし、類型名だけでは判断できない場合があります。自社で使用する物品の製造を委託する場合は、同種の物品を自社が業として製造しているかが問われますし、自ら用いる役務の委託は原則として役務提供委託に当たらないなど、類型ごとに固有の要件があります。

4. 規模の要件を満たすか。

物品の製造委託・修理委託・特定運送委託/情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る)/役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る)の場合

委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
資本金3億円超資本金3億円以下の法人、または個人事業者
資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下の法人、または個人事業者
常時使用する従業員300人超常時使用する従業員300人以下の法人、または個人事業者

上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託の場合

委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
資本金5千万円超資本金5千万円以下の法人、または個人事業者
資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下の法人、または個人事業者
常時使用する従業員100人超常時使用する従業員100人以下の法人、または個人事業者

従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。

ここで注意したいのは、資本金1千万円超の会社は、対象となる委託取引について、相手が資本金1千万円以下の法人または個人事業者であれば、規模要件上は「委託事業者」に該当し得るという点です。年商数億円規模の中小企業でも、小規模な加工先や個人の外注先に対しては発注側の立場に立ちます。「自社は中小企業だから規制される側だ」という理解だけでは足りません。

なお、以上は通常の規模区分による一次判定です。 一定の支配関係にある事業者を取引に介在させる場合には、みなし適用の規定によって対象になることがあります。判断が難しい場合は、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口に確認してください。

新設されたのは「決定の過程」を問う規定です

委託事業者の禁止事項は11項目あります。このうち今回新設されたのが、協議に応じない一方的な代金決定の禁止(第5条第2項第4号)です。

中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。

条文を要素に分けると、次の4つがそろった場合の話です。

  1. 費用の変動その他の事情が生じた
  2. 中小受託事業者が代金額の協議を求めた
  3. 協議に応じない、または、協議において相手から求められた事項について必要な説明・情報提供をしない
  4. 一方的に代金額を決定した

3つ目は「または」でつながっています。協議の場にはついたものの、相手から求められた事項について必要な説明をしなかった場合も含まれます。 一般的な説明を一方的に送れば足りるという意味ではなく、相手が求めた特定の事項について、価格を自由な意思に基づいて決めるために必要な説明や根拠情報を提供したかが問われます。

「協議に応じなかった」という一点だけで直ちに成立する規定ではありません。 ただし、この4つがそろう場面は、値上げ要請への対応ではごく普通に起こり得ます。

従来からある買いたたきの禁止(第5条第1項第5号)は、通常支払われる対価に比べて著しく低い代金額を不当に定める行為を禁じるものです。こちらは主に代金の水準が問題になります。

なお「通常支払われる対価」は、市価だけを指すわけではありません。運用基準は、市価の把握が困難な場合として、従前の単価で計算された対価に比べて著しく低い額や、主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を公表資料から把握できる場合において据え置かれた額も、これに当たるとしています。「市場価格がはっきりしない特注品だから買いたたきにはならない」とは言えません。

買いたたきの該当例にも、価格転嫁に関するものが挙げられています。コスト上昇分を取引価格に反映する必要性について交渉の場で明示的に協議せずに据え置くこと、引上げを求められたのに価格転嫁をしない理由を書面や電子メール等で回答せずに据え置くこと、の2つです。

新設規定と買いたたきは、どちらか一方ではなく、同時に問題となる場合があります。 協議を尽くしても、著しく低い額を不当に定めれば、買いたたきに該当する可能性は残ります。

「協議の求め」は、正式な申入れとは限りません

実務で最も見落としやすいのがここです。

条文の「協議を求めた」について、テキストは書面か口頭かを問わず、明示的に協議を求める場合のほか、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含むと説明しています。その例として挙げられているのが、「従来の単価を引き上げて計算した見積書等を提示した場合」です。

つまり、改定後の単価を記載した見積書は、それだけで「協議の求め」に当たり得ます。 「協議を申し入れる」と書かれていなくても同じです。届いた文書が値上げの案内なのか協議の求めなのかは、表現ではなく内容によって判断されます。

そして「協議に応じず」には、明示的に拒む場合だけでなく、協議の求めを無視する、協議を繰り返し先延ばしにして実施を困難にさせる場合が含まれます。

さらに、「決定」には代金を引き上げること・引き下げることのほか、据え置くことも含まれます。 返事をしないまま従来の価格で発注を続けることは、こちらとしては何も決めていないつもりでも、一方的な決定と評価されうるということです。

テキストが挙げる該当例には、次のようなものがあります。

  • 引上げの協議を求められたのに、応じない旨を示したり、求めを無視したり、回答を引き延ばしたりして、協議に応じないこと
  • 引上げを求められたのに、合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、それを協議に応じる条件とすること
  • 合理的な理由を示して引上げを求められたのに、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、申し入れられた引上げ額の一部を拒み、または従前の額を提示すること

3つ目に注意してください。要請額を満額受け入れないこと自体ではなく、根拠を示さないことが問われています。

受け入れないこと自体は、直ちに違反ではありません

ここが実務上いちばん重要な点です。テキストのQ&Aでは、要請額の全部または一部を受け入れないことについて、次のように説明しています。

最終的な代金の額は委託事業者と中小受託事業者との協議により定められるものであるが、中小受託事業者からの要請額を委託事業者が受け入れられない場合には、その理由や考え方の根拠を十分に説明することが必要となる。

該当するかどうかは、実質的な協議が行われているか否かで判断されます。新設規定について言えば、受け入れないこと自体が禁止されたのではなく、協議や必要な説明を欠いたまま決めることが禁止された、という整理になります。

もう一つ、押さえておきたいQ&Aがあります。委託事業者が自ら妥当と判断したコスト上昇分を踏まえて値上げに応じた場合でも、一方的に相手の申入れ額を下回る額を決定すれば、該当するおそれがあるとされています。「こちらで計算して、この分は上げた」では足りず、協議を経る必要があります。

どう回答するか

法律の要請と交渉の実務は、この場面では同じ方向を向いています。相手の根拠を確かめ、自社の根拠を示す。それが交渉としても有効です。

1. 値上げの根拠を聞く。

何が、いつから、どれだけ上がったのか。原材料か、物流費か、労務費か、エネルギーか。対象品目すべてが同率なのか。前回の改定からどれだけ経っているのか。ここが曖昧なまま金額だけ交渉しても、着地点が決まりません。

2. 全部かゼロかにしない。

率を下げる、実施時期を遅らせる、段階的に実施する、対象品目を絞る。自社が許容できる金額から逆算して、どの組み合わせなら成り立つかを設計します。

3. 交換条件を用意する。

発注ロットをまとめる、内示を前倒しする、納期に余裕を持たせる、支払サイトを短くする、数量をコミットする。相手のコストが実際に下がるなら、値上げ幅を抑えることの合理的な根拠になります。 ただし、相手に負担を移すだけの条件は、別の問題を生みます。

4. 代替調達は、切り替え費用まで含めて比べる。

品質確認、金型、認証、初期不良、在庫の二重持ち、リードタイムの変化。これらを金額に換算し、削減できる負担額と並べます。加えて、切り替えなかった場合の供給リスクも見ておきます。なお、切り替えの検討は自社の経営判断として行うものであり、値上げの申入れがあったこと自体への対抗措置として持ち出すものではありません。 取適法には、委託事業者の違反行為を公正取引委員会や中小企業庁長官等に知らせたことを理由として、取引数量を減らしたり、取引を停止したりするなど、不利益な取扱いをすることを禁じる規定(報復措置の禁止・第5条第1項第7号)もあります。

5. 回答は、相手の根拠に対応した形で書く。

自社の採算が厳しいという事情は、社内で金額を決めるためには必要です。しかし、相手の申入額を下回る額を提示する理由としては、それだけでは足りません。相手が示した根拠を検討したうえで、自社の試算とどこが違うのかを示す必要があります。

文例を挙げます。

ご提示いただいた価格改定について、原材料費・労務費等の上昇に関するご説明および資料を確認し、対象品目への影響を検討いたしました。

ご提示の改定率〇%について、当社では基準時点を〇年〇月、対象コストを〇〇、対象品目への影響を〇〇として試算しております。その結果、現時点では対象品目〇〇について、〇月発注分から〇%の改定をご提案したいと考えております。試算の前提と、ご提示額との差異は別紙に記載しております。

あわせて、発注ロットの集約と内示時期の前倒しにより、双方の負担を抑えられる可能性がありますので、こちらもご相談させてください。

当社の試算前提に相違がある場合や、追加でご考慮いただきたい資料・事情がありましたら、ご提示をお願いいたします。内容を確認のうえ、改めて協議のお時間をいただけますでしょうか。

ポイントは4つです。現時点の検討結果として暫定性を示すこと。相手の資料をどう検討したかを書くこと。自社試算との差異を具体化すること。相手に追加の説明や修正の機会を残すこと。

これは実質的な協議を進めるための基本形です。ただし、この1通を送れば足りるわけではありません。相手から質問や再提案があった場合や、追加資料が提示された場合には、それらにも応答する必要があります。応答しないまま自社案で発注を続ければ、なお問題となり得ます。

何を記録に残すか

協議の日時、出席者、相手から提示された資料、こちらが示した根拠と試算の前提、回答の内容と理由。これらを残しておきます。

第5条第2項第4号が、協議の議事録そのものを一律に作成するよう定めているわけではありません。ただし、該当するかどうかが実質的な協議・説明が行われたかどうかで判断される以上、後から自社の対応過程を説明できる状態にしておくことには意味があります。

なお、これとは別に、取適法の対象取引には第7条の書類等の作成・保存義務があります。 中小受託事業者の名称、委託した日、給付の内容、受領期日、実際に受領した日、代金の支払などを記載した書類または電磁的記録を作成し、2年間保存することが求められます。「取適法に記録の義務はない」ということではありません。

回答の形式についても同じです。第5条第2項第4号が書面での回答を一律に求めているわけではありませんが、買いたたきの該当例に「価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で回答することなく」据え置くことが挙げられていることを踏まえると、口頭のやりとりだけで終えず、最終的な回答の理由と提案条件をメールや書面で残す運用が安全です。

まとめ

値上げ要請への対応で、2026年から変わったのは「受け入れるかどうか」ではありません。実質的に協議し、相手が求めた事項について説明したかどうかです。

  1. 自社の取引が対象になり得るかを、4つの点で一次判定する。資本金1千万円超なら発注側に立つ場面がある
  2. 届いた改定見積書は、それ自体が協議の求めに当たり得る。無視も引き延ばしも避ける
  3. 受け入れられない場合は、相手の根拠を検討したうえで、自社の試算との差異を示す。結論・理由・代案をセットで伝える
  4. 相手から質問や再提案があれば、それにも応答する。一方的に金額を確定させない
  5. 回答理由と提案条件をメールや書面で残し、協議の経過を記録する

そのうえで、根拠を聞き、部分的な受け入れを設計し、交換条件を用意する。これは法律への対応であると同時に、そのまま交渉の進め方でもあります。


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※本記事は2026年8月時点の公開情報に基づく一般的な整理です。個別の取引が取適法の対象になるかどうか、また特定の行為が違反に当たるかどうかの判断は、取引の実態によります。具体的な事案については、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口、または取引法務を扱う弁護士にご確認ください。


よくある質問

Q. 仕入先の値上げ要請を受け入れなかったら、法律違反になりますか。

受け入れないこと自体が違反になるわけではありません。公正取引委員会・中小企業庁のテキストでは、最終的な金額は協議により定められるものとしたうえで、要請額を受け入れられない場合には「その理由や考え方の根拠を十分に説明することが必要」としています。新設規定が禁じているのは、協議に応じないまま、または相手が求めた事項について必要な説明・情報提供をしないまま、一方的に金額を決めることです。なお、代金の水準については別に買いたたきの規定があります。

Q. 正式な協議の申し入れがなければ、対応しなくてよいですか。

そうとは限りません。「協議を求めた」は書面か口頭かを問わず、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含むとされています。その例として、従来の単価を引き上げて計算した見積書等の提示が挙げられています。改定後の単価が記載された見積書は、それだけで協議の求めに当たり得ます。

Q. 返事をせず、今までどおりの価格で発注を続けるのは問題ありませんか。

問題になり得ます。「一方的に代金の額を決定すること」の「決定」には、引き上げること・引き下げることのほか、据え置くことも含まれます。また買いたたきの該当例としても、コスト上昇分の反映について明示的に協議せずに据え置くこと、引上げを求められたのに価格転嫁をしない理由を書面や電子メール等で回答せずに据え置くことが挙げられています。

Q. 自社は中小企業ですが、取適法の対象になりますか。

取引ごとに判断します。適用されるのは、取引内容と規模要件の両方を満たす取引です。資本金1千万円超の法人は、対象となる委託取引について、相手が資本金1千万円以下の法人または個人事業者であれば、規模要件上は発注側の「委託事業者」に該当し得ます。年商数億円規模の会社でも、小規模な外注先との取引では、規制を受ける側になる場合があります。なお、一定の支配関係にある事業者を介在させる場合には、みなし適用の規定によって対象になることがあります。

Q. 部品や資材を買っているだけでも対象になりますか。

規格品・標準品をそのまま購入する場合は、原則として「委託」には当たりません。ただし、規格品であっても、刻印を打つ、ラベルを貼付する、社名を印刷する、指定の長さ・幅に切断するなど、自社の仕様等を指定して製造・加工を依頼する場合は「委託」に当たり得ます。そのうえで、取引類型と規模要件を満たすかを確認します。契約の形式が請負か売買かは問われません。

Q. 協議の議事録は、法律上作らなければならないのですか。

第5条第2項第4号が、協議の議事録そのものを一律に作成するよう定めているわけではありません。ただし、実質的な協議・説明が行われたかどうかで判断される以上、対応の過程を後から説明できるようにしておくことには意味があります。なお、これとは別に、取適法の対象取引には第7条の書類等の作成・保存義務があり、給付の内容や代金の支払などを記載した書類または電磁的記録を2年間保存することが求められます。

出典

  • 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」令和7年11月 https://www.jftc.go.jp/toriteki/r7text.pdf
  • 公正取引委員会「『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』の改正について」令和7年12月26日 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/202512_roumuhi.html

著者: 日置尚義(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関)