全社の粗利率が安定していても、製品別・案件別に見ると、赤字の製品や案件が隠れていることがあります。その赤字は、全社の数字を眺めているだけでは見えません。
決算書を見て、ほっとしたことはないでしょうか。
「粗利率、つまり売上総利益率は約28%。去年と変わらない。うちは大丈夫だ」
その安心は、半分は正しく、半分は危ういものです。
会社全体の粗利率は、全体の状態をつかむには役立ちます。ただし、社内の見えにくい赤字を、平均というベールで隠してしまうことがあります。
前回は「値上げ交渉の前に、自社の原価を製品別・案件別で言えますか」という話をしました。今回はその続きです。なぜ全社の数字だけでは足りないのか。具体的な数字で見ていきます。
この記事の要点
- 全社の粗利率は、すべての製品・案件をまとめて割った「加重平均」です
- 全社粗利率27.5%でも、粗利の段階で年間300万円の赤字製品が隠れていることがあります
- 製品別・案件別の採算が見えないと、値上げなどの打ち手が粗くなります
- 最初は精密な原価計算ではなく、直接費だけを引いた「一次採算」で十分です
- 赤字の製品・案件は、「狙ってやっている赤字」か「気づかず続いている赤字」かの区別が大切です
全社の粗利率は「平均点」にすぎない
学校の平均点を思い出してください。
クラスの平均が70点でも、その中には95点の子もいれば、40点でつまずいている子もいます。平均だけを見ていては、誰がどこで苦戦しているのかは分かりません。
会社の粗利率も同じです。全社の粗利率は、すべての製品・案件をまとめて割った「加重平均」です。売上の大きい製品・案件の採算が良ければ、その陰で薄利の製品や赤字案件は見えにくくなります。
全社粗利率27.5%でも、赤字製品は隠れる
単純化した例で見てみます。
売上2億円、全社粗利率27.5%の製造業です。一見、健全な数字に見えます。なお、表の粗利は、決算書の売上総利益を製品別に割り直したものと考えてください。
| 製品 | 売上 | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|
| 製品A(主力) | 1.2億円 | 4,800万円 | 40% |
| 製品B | 0.5億円 | 1,000万円 | 20% |
| 製品C | 0.3億円 | ▲300万円 | ▲10% |
| 全社 | 2.0億円 | 5,500万円 | 27.5% |
全社では、粗利5,500万円、粗利率27.5%。一見すると、しっかり利益が出ているように見えます。
ところが製品Cは、粗利の段階で年間300万円のマイナスです。
主力の製品Aが好調なので、その粗利が製品Cのマイナスを覆い隠しています。決算書を全社で眺めているだけでは、この300万円には気づきにくいのです。
製品別・案件別に見えないと、打ち手が粗くなる
製品ごとの採算が見えていないと、打てる手が雑になります。
「最近きついから、全商品を一律で5%値上げしよう」
もちろん、一律値上げが必要な場面もあります。ただ、本当に手を入れるべき製品や案件が分からないまま一律で動くと、好調な製品の顧客にまで値上げをお願いすることになります。
見直すべきなのは製品Cかもしれないのに、関係のない取引先まで巻き込み、無用な摩擦を生む可能性があります。
逆に、製品Cが赤字だと分かっていれば、選択肢は具体的になります。
- 製品Cだけ値上げを交渉する
- 最低ロットや納期など、受注条件を見直す
- 材料の調達先や外注先を見直す
- 将来のために、戦略的に残すと決める
- 収益改善が難しければ、撤退を検討する
いずれにせよ、根拠を持って動けます。どこで利益が薄くなっているかを知っている会社だけが、狙いを定めて利益を立て直せます。
完璧な原価計算は、いりません
「製品別の採算なんて、うちにはそんな仕組みがない」
そう感じた方こそ、ここから先が大事です。最初から精密な原価計算を目指すと、必ず途中で止まります。
おすすめは、まず直接費だけで見ることです。たとえば、次のような費用です。
- 材料費
- 外注費
- その製品・案件に直接かかった工数
- 個別に発生する運賃や梱包費
なお、工数は、そのままでは原価ではありません。担当者ごとの時間単価、または社内で決めた標準単価を置き、「工数 × 時間単価」で労務費に換算して見ていきます。
売上から、これらの直接費を引いてみます。
ここで見るのは、厳密な意味での限界利益ではありません。まずは「直接費を引いた後に、いくら残るか」という一次採算です。
工場の家賃や本社の管理費といった共通費は、最初は配分しなくて構いません。共通費の割り振り方で延々と悩むより、まず主要な製品・案件について「直接費を引いたら残るのか、足りないのか」を出してみる。それだけでも、製品Cのような出血箇所はかなり見えやすくなります。
もちろん、一次採算でプラスだからといって、最終的に十分な利益が残るとは限りません。共通費や販管費まで含めると、採算が厳しくなることもあります。ただし、一次採算の段階でマイナスになっている製品・案件は、優先的に確認すべき危険信号です。
精度は、後から上げればいい。最初の一歩は、粗くても全体像が見えることです。
赤字の製品が見つかっても、すぐにやめなくていい
ひとつ補足します。赤字の製品・案件が見つかっても、即座に撤退する必要はありません。
- 新商品で、まだ立ち上げ期だから利幅が薄い
- 主力製品を買ってもらうための入り口商品になっている
- 重要顧客との関係維持のために、戦略的に受けている
- 将来の大型案件につながる可能性がある
こうした「意味のある赤字」もあります。
大事なのは、その赤字が「狙ってやっている赤字」なのか、「気づかず続いている赤字」なのかを、はっきりさせることです。前者は投資、後者はただの損失です。製品別・案件別に分けて初めて、この区別がつきます。
自社で確かめる
次の問いに、今すぐ答えられるか試してみてください。
- 売上上位5つの製品・案件について、粗利率をそれぞれ言えますか
- 手間がかかっているのに、利益が薄そうな製品・案件を把握していますか
- その数字を出すのに必要なデータ(製品別の売上、材料費、外注費、工数など)は、社内のどこかにありますか
- いちばん売上の大きい製品と、いちばん利幅の薄い製品は、同じですか、違いますか
- 値上げすべき製品、条件を見直すべき案件を、数字で説明できますか
ひとつでも詰まったなら、全社の平均が、何かを隠している可能性があります。
なお、赤字案件は必ずしも売上上位にあるとは限りません。売上の大きい順だけでなく、「手間がかかっているのに利益が薄そうな案件」もあわせて確認するのがおすすめです。
全社の数字を、製品別・案件別に割り直す
顧問税理士が作成する決算書や月次試算表は、会社全体の数字を正しくまとめるための、大切な資料です。ただし、そこには通常、製品別・案件別の採算までは出てきません。
これは税理士の仕事が足りないという話ではありません。資料の目的が違う、というだけのことです。決算書や試算表は、税務や会社全体の状態を確認するためのもの。一方、値上げ・受注条件の見直し・撤退判断に使うには、その数字を経営判断用に組み替える必要があります。
RMCビジネスラボでは、スポットで現状を整理する「経営健康診断」と、月次で数字を追う「経営定期健診」を行っています。
経営健康診断は、決算書・試算表をもとに、会社の現在地と改善余地、優先して手をつける課題を整理するのが基本です。
製品別・案件別の採算まで踏み込むには、主要な売上明細・仕入明細・外注費・工数といった資料が別途必要になります。これらがそろえば、たとえば次のような形で整理できます。
- 売上上位の製品・案件の、簡易採算表
- 粗利の段階で利益を出しているもの、削っているものの一覧
- 値上げを検討すべき製品・案件
- 受注条件を見直すべき案件
- 戦略的に残す赤字か、見直すべき赤字かの整理
- 今後、毎月追うべき数字
資料がそろっていない場合は、まず何を集めれば採算が見えるようになるかを、初回の相談で一緒に決めます。値上げも、撤退も、受注条件の見直しも、判断はそこからです。
まずは一度、自社の数字が外からどう見えるかを知りたい方は、スポットの経営健康診断から始められます。そこで見える化した課題を継続的に追っていく場合は、月次でご一緒する経営定期健診につなげます。
よくある質問
Q1. 全社の粗利率だけでは、なぜ赤字製品が見えないのですか?
A. 全社の粗利率は、すべての製品・案件をまとめた平均値だからです。売上や利益の大きい製品があると、その陰で赤字製品や赤字案件が隠れてしまうことがあります。
Q2. 製品別・案件別の採算を見るには、何から始めればよいですか?
A. 最初から精密な原価計算を目指す必要はありません。まずは、売上から材料費、外注費、直接工数、個別運賃などの直接費を引き、簡易的な一次採算を見ることから始めるのがおすすめです。
Q3. 赤字製品はすぐにやめるべきですか?
A. 必ずしもすぐにやめる必要はありません。新商品の立ち上げ期、主力商品の入口商品、重要顧客との関係維持など、戦略的に残す意味がある場合もあります。大切なのは、狙って続けている赤字なのか、気づかず続いている赤字なのかを分けることです。
Q4. 顧問税理士の試算表では製品別・案件別の採算は分からないのですか?
A. 通常の決算書や月次試算表は、会社全体の数字を把握するための資料です。製品別・案件別の採算を見るには、売上明細、仕入明細、外注費、工数などを組み合わせ、経営判断用に数字を組み替える必要があります。
製品別・案件別の採算を、一緒に整理しませんか
製品別・案件別の採算を整理したい方は、初回30分の無料相談をご利用ください。資料が手元になくても構いません。まずは、どの製品・案件の採算が気になっているのかをお聞かせください。
この記事を書いた人
日置 尚義(ひおき なおよし)|中小企業診断士・認定経営革新等支援機関|RMCビジネスラボ代表。製造業・飲食業・小売業・BtoBサービス業の「売上はあるが手元に残らない」を月1回の経営定期健診で整理する。
