過去最高の売上。なのに減益。オリエンタルランドの決算に「一年前」から出ていたサイン(決算書健診シリーズ①)

決算書を「額(売上高・利益額)」だけでなく「率(営業利益率・粗利率)」で複数期にわたって読み解くと、「過去最高益」の年にも次期の減益につながるサインを事前に把握できます。オリエンタルランドの3期決算を例に、利益率低下のサインを読む視点を紹介します。

2026年4月、オリエンタルランドの決算が発表されました。売上高は7,045億円で過去最高。ところが営業利益は前の年から減り、「増収減益」での着地でした。要因は、人件費やシステム・メンテナンスなどの諸経費の増加と説明されています。

過去最高の売上なのに、なぜ利益が減るのか。

実はそのサインは、1年前の決算にもう表れていました。今回は、決算書を「率」で読む”健診”の目で、この流れを2年前から順に追ってみます。使うのは誰でも見られる公開情報だけ。自社の決算書を読む練習にもなります。


まず、1年前の決算(2025年3月期)から

時計を1年戻します。2025年3月期、オリエンタルランドはこういう決算でした。

2024年3月期 2025年3月期
売上高 約6,185億円 約6,794億円(前年比 +9.8%)
営業利益 約1,654億円 約1,721億円(前年比 +4.0%)

売上も利益も過去最高を更新。文句なしの「増収増益」です。ニュースの見出しだけ見れば、健康そのものに見えます。

でも、健診の目で見ると、もう一歩奥が見えます。


「額」だけでなく「率」も見る

ここで、健診の目を一つ加えます。決算は金額(額)を見て終わりにしがちですが、もう一つ見るべきなのが「率」です。売上に対して、利益がどれくらいの割合で残っているか——営業利益率です。

2024年3月期 2025年3月期
営業利益率 26.7% 25.3%

増収増益なのに、営業利益率は下がっています。理由はシンプルです。売上は9.8%伸びたのに、営業利益は4.0%しか伸びていない。 利益の伸びが売上の伸びに追いついていないのです。

言い換えると、「売上は増えたけれど、1円売るのにかかるコストも増えた」。だから、稼ぐ効率はむしろ落ちている。これは「増収増益」という4文字だけを見ていると、絶対に気づけない情報です。


どのコストが効率を下げたのか

ここでもう一歩だけ奥に進みます。コストには大きく「売上原価」と「販管費(広告宣伝費・販売促進費・管理部門の人件費など)」があります。どちらが効率を下げたのかを分けて見ます。

2024年3月期 2025年3月期
粗利率(売上原価を引いた後の利益率) 40.3% 40.2%
販管費の対売上比率 13.6% 14.9%

粗利率はほぼ変わっていません。つまり、原価のコントロールは効いています。効率を下げた正体は販管費です。販管費は前年から約2割増え、売上の伸び(+9.8%)を大きく上回りました。

この時期、オリエンタルランドは新エリア「ファンタジースプリングス」を開業しています。新しい施設をつくれば、人件費・広告費・減価償却費が先に増えます。販管費の増加は、その投資の姿が数字に出たもの、と読むのが自然です。

この時点では、まだ「増収増益」です。財務の体力も十分(自己資本比率は約70%)で、投資に耐えられる会社の姿が数字に表れています。だから「悪い決算」ではありません。ただ、「販管費が売上以上のペースで増え、稼ぐ効率が落ち始めている」という小さなサインが、ここに出ていました。


そして最新決算(2026年3月期)で、ついに減益

1年後。2026年4月に発表された決算がこれです。3期の「率」を並べると、流れがはっきり見えます。

2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 約6,185億円 約6,794億円 約7,045億円(過去最高)
営業利益率 26.7% 25.3% 23.9%
粗利率 40.3% 40.2% 38.7%
販管費の対売上比率 13.6% 14.9% 14.8%

売上は過去最高を更新し続けています。それでも営業利益率は3年で26.7%→25.3%→23.9%とじわじわ下がり、最新期はついに「増収減益」になりました(営業利益・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益のいずれも前年を下回っています)。

ここで面白いのは、効率を下げている”場所”が動いていることです。

  • 2025年3月期は、粗利率は横ばいのまま販管費が膨らみました(対売上比13.6%→14.9%)
  • 2026年3月期は逆に、販管費はほぼ横ばい(14.9%→14.8%)で、今度は粗利率が下がりました(40.2%→38.7%)

最新期は、テーマパークの運営にかかる費用(人件費など、これは売上原価に含まれます)が増え、原価の側で効率が落ちました。コストの圧力が、販管費から原価へと移ったのです。

「増収増益」だった年に出ていた”効率が落ち始めるサイン”が、その後も止まらず、ついに減益として表面化しました。率を「原価か、販管費か」まで分解して追っていれば、こうした変化を一歩先に捉えられます。 ニュースの見出し(過去最高益・過去最高売上)だけを追っていては、気づけません。これが、決算書を”健診”する価値です。


数字を読んだら、次は「打ち手」を考える

健診は、数字の動きを見つけて終わりではありません。「だから、どうするか」までが本番です。ここからは外から見える数字だけをもとにした”仮説”として、打ち手の立て方をたどってみます。

最新期で効率を下げたのは原価でした。まず切り分けます。この原価率の上昇は、一時的なものか、それとも続くものか。 賞与や一時金のような一度きりの費用なら、来期には戻ります。恒常的な人件費やメンテナンス費用の増加なら、放っておくと利益率はさらに下がっていきます。

「続くコスト」だと見るなら、打ち手は大きく二つです。一つは値決め——増えたコストを価格に乗せられるか(実際、客単価は引き上げられています)。もう一つは運営の効率——同じ売上を、より少ないコストで生み出せないか。どちらに手を打つかは、原価の中身を分解して初めて決められます。

大事なのは、「率のどこが動いたか」で、打つ手が変わることです。原価が原因なら、値決めや仕入れ・工程の見直し。販管費が原因なら、また別の手になります。原因の”場所”を特定し、そこに合った一手を選ぶ——ここまでが健診の仕事です。


これは、御社の決算書でも同じです

オリエンタルランドのような大企業に限った話ではありません。むしろ中小企業ほど、この見方が効きます。

毎年の決算で「去年より売上が増えた」「黒字だった」と確認して、ほっとして終わっていないでしょうか。健診では、そこにもう一行加えます。

  • 売上は増えたか(額)
  • 利益は増えたか(額)
  • そして、利益率は上がったか・下がったか(率)

増収増益でも利益率が落ちているなら、「なぜ落ちたのか」を説明できるかを確認する。原価なのか、販管費なのか。説明できる投資なら前へ。説明できないまま下がっているなら、それは手を打つべきサインです。早く気づくほど、打てる手は多くなります。

決算書は、2期・3期と「率」で並べて初めて、会社の本当の動きが見えてきます。


まとめ

  • 「増収増益」「過去最高益」は良いニュース。でも、それだけでは会社の効率は分からない
  • 営業利益率を数期で並べると、「稼ぐ力」が上がっているか下がっているかが見える
  • オリエンタルランドは、増収増益の年(2025年3月期)に率の低下というサインが出て、その翌年に減益として現実化した
  • 率の変化に早く気づけば、手を打つ時間が稼げる

数字は、見方を一つ加えるだけで、語ってくれる情報がぐっと増えます。


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よくある質問

Q. 決算書を「率」で見るとはどういうことですか?

A. 売上高や利益の金額(額)だけでなく、「売上に対してどれだけの利益が残ったか」という割合(率)を確認することです。営業利益率・粗利率・販管費率などがその代表です。額が増えても率が下がっていれば、稼ぐ効率は落ちていることになります。

Q. 中小企業でも決算書を「率」で読む意味はありますか?

A. はい、むしろ中小企業ほど有効です。大企業は多くのアナリストが決算を分析しますが、中小企業は経営者自身が数字を読む必要があります。率で見ることで、「売上は増えているのに利益が残らない構造」に早めに気づけます。

Q. 粗利率が下がったとき、まず何を確認すればよいですか?

A. まず「一時的な要因か、構造的な要因か」を切り分けることです。立ち上げコストや特殊な受注が原因なら一時的で、その後改善が見込めます。一方、値引き圧力や原材料費の恒常的な上昇が原因なら、値決めや仕入れ交渉などの打ち手が必要になります。