仕入先から値上げ要請を受けたら、対象品目・改定日・値上げ後単価・予定数量を確認し、購入額の増加・資金繰りへの影響・当期利益への影響・12カ月換算の負担増を分けて計算します。そのうえで、利益減の許容・仕入条件や仕様の見直し・販売価格への反映の3つに、それぞれいくら配分するかを決めます。
仕入先から「10月出荷分から8%値上げします」と連絡が来たとき、その場で受けるかどうかを決める必要はありません。まず知りたいのは、8%という率ではなく、当期と今後12カ月で負担がいくら増え、そのうちいくらが利益に影響するのかです。金額が出れば、自社で吸収するのか、仕入条件を見直すのか、販売価格に反映するのかについて、具体的な対応を組み立てられます。
この記事では、その計算の手順と、計算した後に何を決めるのかまでを整理します。
通知を受け取ったら、まず確認する4項目
値上げ通知には、たいてい率と時期しか書かれていません。返事の前に、次の4つを仕入先に確認してください。
- 対象品目の範囲(全品か、一部か)
- 改定日(いつ出荷分からか)
- 値上げ後の単価(率ではなく単価で)
- 回答期限
ここで大切なのは、受領の連絡と、受けるかどうかの返事を分けることです。「ご連絡ありがとうございます。内容を確認して改めてご回答します」と、受領した旨だけを伝え、回答期限を押さえます。そのうえで社内で影響額を計算します。期限が短い場合は、その時点で延長を相談しておくと動きやすくなります。
影響額は「購入」「資金繰り」「当期利益」を分けて出す
計算の基本式は、品目ごとの新旧単価の差額 × 予定購入数量です。品目別の単価や数量をすぐに出せない場合は、値上げ対象の年間仕入額 × 値上げ率を簡便法として使います。
例えば、売上2億円・粗利率30%の製造業を考えます。値上げ対象の資材の年間仕入額が1,500万円で、対象品目が一律8%上がり、購入数量が変わらないと仮定します。以下の利益計算は税抜金額で行います。
1,500万円 × 8% = 120万円
ここで一つ、押さえておきたいことがあります。この120万円は、まず「購入額の増加」です。そのまま「当期の利益が120万円減る」ことも、「当期に120万円多く支払う」ことも意味しません。
購入した資材が期末に材料・仕掛品・製品として残る場合、その分は当期の利益に影響しません。その材料を含む製品が販売され、売上原価になるまで繰り越されます。「仕入高」と「売上原価」は同じではないということです。また、購入した月と実際に支払う月も、締め日と支払サイト(締め日から支払日までの期間)によってずれます。
そこで、目的別に4つに分けます。
| 何を見たいか | 掛ける数量・確認する条件 |
|---|---|
| 当期の購入額・仕入債務の増加 | 当期に購入する予定数量 |
| 当期の資金繰りへの影響 | 支払日が当期中に来る購入分(締め日・支払サイトを反映。資金繰りでは消費税を含む請求額で見ます) |
| 当期利益への影響 | 当期に売上原価になる予定数量。製造業なら、当期に販売する製品に対応する材料使用量 |
| 12カ月換算の負担増 | 今後12カ月の予定購入数量 |
10月からの値上げで決算期が3月なら、当期の購入額に影響するのは6カ月分です。上の例で数量が平準なら、当期の購入額増は約60万円。当期利益への影響は、そのうち当期中に売れた製品に対応する分だけになります。在庫をほとんど持たない業種なら、両者はほぼ一致します。
厳密な数量が出せない場合は、値上げ後に購入する数量のうち、期末に材料・仕掛品・製品として残る見込み分を除いて概算してください。製品別の材料使用量が分かるなら、当期の販売予定数量に標準使用量を掛けます。原価計算の方法によって実際の処理は変わるため、あくまで概算です。
なお、リベート、運賃、最低発注量などの条件が同時に変わる場合は、それも影響額に含めてください。
「追加受注で補う」と「価格に反映する」は、別の計算
ここが最も間違えやすいところです。負担増120万円に対して、経営者が取りうる打ち手は複数あり、必要な金額はそれぞれ違います。
以下では、追加受注の限界利益率(売上高から、売上に伴って増える費用を差し引いた利益の割合)も30%と仮定します。
| 知りたいこと | 計算 | この例では |
|---|---|---|
| 12カ月でいくら負担が増えるか | 対象仕入額 × 値上げ率 | 120万円 |
| 追加受注だけで補うなら、いくら売るか | 負担増 ÷ 限界利益率 | 400万円の追加売上 |
| 既存売上への価格反映で、利益額を戻すなら | 必要な改定額=負担増 改定率=負担増 ÷ 改定対象売上高 | 120万円 (対象が2億円なら0.6%) |
| 値上げ前の粗利率30%を維持するなら | 値上げ後の売上原価 ÷ 70% − 値上げ前の売上高 | 約171万円(約0.86%) |
「120万円 ÷ 30% = 400万円」は、顧客に400万円の値上げをお願いするという意味ではありません。 これは追加受注だけで120万円分の利益を新たに稼ぐ場合に必要な売上高です。
既存の売上に価格を反映して120万円を回収するなら、必要な改定額は120万円です。改定率は、分母に何を置くかで変わります。全社売上2億円を対象にできるなら0.6%。ただし実務では、分母は「回収期間のあいだに実際に価格を改定できる製品・顧客の売上高」です。改定の実施が半年後なら、今後12カ月で2億円分に乗せることはできません。
120万円 ÷ 2億円 = 0.6%(全社売上を同じ率で改定でき、販売数量が減らない場合)
さらに、粗利率を値上げ前と同じ30%まで戻したい場合は、120万円では足りません。売上原価が1億4,000万円から1億4,120万円に増えているので、粗利率30%(原価率70%)を保つために必要な売上高は、1億4,120万円 ÷ 70% = 約2億171万円です。必要な価格改定額は約171万円、値上げ前の売上2億円に対して約0.86%になります。
いずれの計算も、販売数量と製品構成が変わらないことを前提にした目安です。実際には値上げによる数量減や構成の変化が起きます。
つまり、「利益額を戻す」のか「粗利率を維持する」のかで、決める数字が変わります。先に目的を決めてから計算してください。
一つ注意があります。追加受注のところで使うのは、粗利率ではなく限界利益率です。製造業の売上原価には、売上が増えても大きくは変わらない製造人件費や減価償却費が含まれることがあります。上の例では両方30%と置きましたが、実際には一致しないほうが普通です。
今後12カ月の負担増120万円を、どう配分するか
金額が出たら、次は配分です。ここでは、今後12カ月の負担増120万円を、同じ12カ月の中でどう吸収・削減・回収するかを考えます。「許容する・見直す・価格に反映する」は三者択一ではなく、組み合わせるのが普通です。
| 打ち手 | 金額 | 決めること |
|---|---|---|
| 利益減として許容する | 20万円 | 許容上限と、その期間 |
| 仕入条件・発注ロット・仕様を見直す | 30万円 | 担当者と期限 |
| 販売価格に反映する | 70万円 | 対象製品・顧客・実施月・回収期間 |
真ん中の「見直す」は、値上げ幅そのものを動かす打ち手です。発注ロットをまとめる、納期に余裕を持たせる、グレードや仕様を落とす、代替品に切り替える、といった選択肢があります。仕入先にとっての手間が減れば、値上げ幅を抑える交渉材料になります。ただし、代替品への切り替えは品質確認・金型・認証・在庫の二重持ちなどの切り替え費用が発生します。減らせる30万円と、切り替えにかかる費用を並べて比べてください。
⚠️ 注意したいのは、「値上げは受けられません」と一方的に返すことです。 相手が中小企業で、自社が仕様を指定して作らせている取引(製造委託など)に当たる場合、2026年1月1日施行の中小受託取引適正化法(取適法)では、価格協議の求めに応じないまま一方的に代金を決める行為が禁止されています。 断るにしても、協議には応じ、根拠を示す必要があります。詳しくは仕入先の値上げ要請にどう回答するか|取適法で求められる協議・説明・記録の実務で扱っています。
価格に反映する70万円は、対象を絞れば率が変わります。全社売上2億円に薄く乗せるなら0.35%ですが、対象製品の売上が5,000万円なら1.4%です。どの製品について、どの顧客に、いつから反映するのかを決めて初めて、交渉に使える数字になります。
自社が価格転嫁する側に回るときの進め方は、こちらで扱っています。
→ 値上げ交渉の前に、自社の原価を「製品別・案件別」で言えますか
配分額、対象製品・顧客、実施月、担当者まで仮決めしたら、仕入先への回答・再交渉と、顧客への価格改定に向けた準備を並行して進めます。
まとめ:今日やる4つ
値上げ通知への対応は、金額を確認して終わりではありません。誰が、いつまでに、どの金額を動かすかを決めるところまでが一続きです。
- 値上げ対象品目と新旧の単価を一覧にし、当期の予定購入数量を掛けて購入額の増加を算出する。支払条件を反映して資金繰りへの影響も確認する
- 当期に売上原価になる数量から、当期利益への影響額を算出する
- 今後12カ月の負担増を算出し、利益減の許容・調達見直し・価格反映に配分する
- 各打ち手の担当者と期限、価格反映の対象とする製品・顧客・実施月、仕入先への回答内容を決める
値上げ通知、仕入明細、予定購入数量、直近の試算表がそろっていれば、概算の算出と仮の配分には今日から着手できます。
値上げの影響を、社内で決められる数字に変えたい方へ
年間仕入額に値上げ率を掛けるところまでは、電卓で計算できます。難しいのはその先です。どこまで自社で吸収し、いくらを価格に反映し、どの打ち手に誰が期限を持つのか。ここは決算書と試算表を並べて、影響額を配分に落とすところから始まります。
RMCビジネスラボの経営健康診断では、決算書・試算表をもとに次を整理します。
- 購入額・資金繰り・当期利益への影響
- 利益減の許容・調達見直し・価格反映の配分
- 翌月以降に追う指標と担当者
※製品別・案件別の採算まで踏み込むには、売上明細や製品別の使用量・工数といった資料が必要です。手元の資料でどこまで見られるかは、初回の相談で確認します。
月次で変化を追う必要がある場合は、経営定期健診で、試算表を毎月の打ち手に変えるサイクルをつくります。
「自社の計算が合っているか確認したい」という段階でも構いません。まずは初回30分の無料相談で、いま届いている値上げ要請の中身をお聞かせください。
よくある質問
Q. 仕入先からの値上げは、受け入れるしかないのでしょうか。
打ち手は3つあり、組み合わせるのが一般的です。「利益減として許容する」「仕入条件や仕様を見直す」「販売価格に反映する」の3つです。どの打ち手にいくら配分するかは、値上げ率だけでは決められません。年間の負担増を金額に直し、3つに配分してから回答してください。
Q. 値上げの影響額は、どう計算すればよいですか。
値上げ後単価と値上げ前単価の差額に、予定購入数量を掛けます。品目ごとの単価が分からない場合は、対象品目の年間仕入額に値上げ率を掛ける簡便法でも構いません。なお、そこで算出されるのは、購入額と仕入債務(買掛金など)の増加です。実際の支払額と支払時期は、締め日と支払サイトを反映して確認し、当期利益への影響は、当期に売上原価になる数量で計算します。在庫を持つ業種では、購入した全量が当期の売上原価になるとは限りません。
Q. コスト増を取り返すには、いくら売上を増やせばよいですか。
負担増を限界利益率で割ると、追加受注だけで補う場合の必要売上高が出ます。負担増120万円・限界利益率30%なら400万円です。ただしこれは「顧客に400万円値上げする」という意味ではありません。既存売上への価格反映で回収するなら、必要な改定額は120万円です。改定率は、回収期間中に実際に改定できる対象売上高で割って求めます。
Q. 値上げ前と同じ粗利率に戻すには、いくら価格を上げればよいですか。
利益額を戻すのと、粗利率を維持するのは別の計算です。売上2億円・粗利率30%で売上原価が120万円増えた場合、利益額を戻すために必要な価格改定額は120万円ですが、粗利率30%を維持するには約171万円(約0.86%)の価格改定が必要になります。いずれも販売数量と製品構成が変わらず、全売上を同じ率で改定できる場合の目安です。どちらを目的にするかを先に決めてください。
Q. 値上げの通知が来る前に、兆候をつかむことはできますか。
主要品目の仕入単価、費目の金額、対売上高比率を月別に並べておくと、小さな改定や運賃の加算に早く気づけます。金額と比率は月次試算表から、品目別の単価は仕入明細・請求書・購買データから確認します。取得元が違う点に注意してください。比率は売上構成・季節変動・在庫増減でも動くため、上昇していたら単価・数量・構成のどれが原因かを分けて確認します。
Q. 業種によって、見るべき費目は変わりますか。
変わります。製造業なら材料費率・外注加工費率・主要材料の単価、小売業や卸売業なら売上原価率・主要商品の仕入単価、飲食業なら食材原価率・包材費率、BtoBサービス業なら外注費率・案件別の限界利益率が中心になります。
Q. 月次試算表を作っていない場合は、何から始めればよいですか。
月次試算表がなくても、仕入明細や請求書から主要品目の単価・購入数量を月別に並べれば、今回の影響額は試算できます。継続的に費用負担の変化を追うためには、月次試算表の作成についても顧問税理士に相談してください。
著者: 日置尚義(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関)
