「黒字なのに現金が増えない」状態は、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の差、具体的には借入返済・売掛金の増加・設備投資などのキャッシュアウトによって生じます。利益はあるが手元資金が増えない構造的な理由を理解することが、経営の意思決定の出発点です。
売上は伸びている。それなのに、通帳残高は増えない。
賞与の支払いや税金の納付が重なる時期、そんな違和感を抱えたまま通帳を眺める社長は少なくありません。
でも、これは必ずしも「経営が悪化している」という意味ではありません。多くの場合、原因は利益の大小ではなく、お金の流れの構造にあります。
実際、月次面談でよく出るのが「黒字のはずなのに、お金がないんです」という相談です。そのとき、まず確認するべきはPL(損益計算書)ではなくBS(貸借対照表)の3つの項目です。
原因1:売掛金の回収が遅い
売上が上がっても、入金が2〜3ヶ月先なら、その間はお金は入ってきません。
一方で、仕入れや外注費は先に払う。人件費は毎月出ていく。この「入りと出のタイミングのズレ」が、手元資金を圧迫する最も多いパターンです。
しかも、売上が伸びるほどこの問題は悪化します。受注が増えれば仕入れも増える。でも入金は先。成長している会社ほど資金繰りが厳しくなる、という逆説が起きます。
たとえば月商1,000万円の会社で、入金サイトが60日、仕入の支払いが30日だとします。売上が好調で月商1,500万円に伸びたとする。入金前に先払いする金額も一気に増えます。売上は伸びているのに手元の資金が苦しい。この構造がまさにそれです。
確認すべき数字: 売掛金回転期間(売掛金 ÷ 月商)。一般的に3ヶ月を超えるようなら、回収条件を一度見直したい水準です。
原因2:借入返済が利益を超えている
「返済」はPLに出てきません。PLの利益が出ていても、返済にそれ以上のキャッシュが出て行ってしまえば、手元資金は減ります。
たとえば、年間利益が500万円で、年間の借入返済額が600万円だとします。PLは黒字でも、手元のお金は毎年100万円ずつ減っていく計算です。
「黒字倒産」という言葉がありますが、まさにこの構造で起きます。PLだけ見て「利益が出ているから大丈夫」と安心する。気付いたときには資金が底をついている。そういうケースは珍しくありません。
確認すべき数字: 年間返済額と、税引後利益+減価償却費の比較。返済額のほうが大きければ、キャッシュは構造的に減っていきます。
原因3:先行仕入で資金が奪われる
製造業や卸売業に多いのが、大量仕入れで在庫が膨らみ、資金が奪われるケースです。
「まとめて仕入れれば単価が下がる」。その判断自体は間違いではありません。しかし、仕入れた分が売れるまでの間、その資金は在庫として固定されます。在庫はPL上では費用になりません。BSに資産として残るだけです。つまり、お金は出ていったのに、PLには影響しない。
受注が好調なときほどこの罠にはまります。「売れるから仕入れる」を繰り返すうちに、倉庫は膨らみ、手元の現金が消えていく。
なお、型落ちで動きが止まった商品や使う予定のない材料がある場合は、もはや「資金が眠っている」のではなく「現金がゴミになった」状態です。早急な処分判断が必要です。
確認すべき数字: 棚卸資産回転期間(棚卸資産 ÷ 月商)。前年より伸びていたら、仕入れと販売のバランスが崩れているサインです。
なぜPLだけでは見抜けないのか
この3つの原因に共通しているのは、PLだけを見ていても気付けない、ということです。
利益が出ているかどうかはもちろん大事です。でも、手元にお金が残るかどうかは、BSと資金繰りの話です。
「売上は伸びているのにお金がない」と感じたら、PLではなくBSを開いてください。
見るべきなのは、次の3点です。
- 売掛金が増えていないか
- 借入金の返済ペースに無理がないか
- 在庫が膨らんでいないか
この3点を前年と比較するだけで、原因はかなりの確率で見えてきます。
まず社長が見るべき3つの数字
「売上は増えているのに、お金が残らない」——そう感じたら、今日やることは3つだけです。
- 直近の試算表を開く
- 売掛金・借入残高・棚卸資産を前年同月と比べる
- 増えている項目に丸をつける
それだけで、「なぜお金が残らないのか」の手がかりが見えてきます。
もし試算表を見ても整理しきれないと感じたら、ひとりで悩まず、第三者と一緒に数字の構造を確認するのが早道です。売掛金・借入返済・在庫——どこにお金が滞留しているかを整理すれば、打ち手が見えてきます。
よくある質問
Q. 黒字倒産とはどういう状態ですか?
A. 損益計算書(PL)上は利益が出ているにもかかわらず、手元の現金が底をついて支払い不能になる状態です。借入返済が利益を上回る場合や、売掛金の回収遅延・在庫増加によってキャッシュが固定される場合に起きます。
Q. 売掛金回転期間の改善方法はありますか?
A. 代表的な方法は、①請求書の発行タイミングを早める、②入金サイトの短縮を取引先と交渉する、③ファクタリング(売掛債権の早期資金化)を活用するの3つです。まず現状の回転期間を計算し、業界平均と比較することから始めると改善すべき箇所が見えてきます。
Q. 在庫が増えているかどうかはどこを見ればわかりますか?
A. 貸借対照表(BS)の流動資産の中にある「棚卸資産」の金額を前期末・前年同月と比較してください。金額が増加している場合、棚卸資産回転期間(棚卸資産 ÷ 月商)も計算すると、何ヶ月分の在庫を抱えているかが把握できます。
