この記事の結論:資金繰り表づくりで生成AIに任せやすいのは、入出金項目の分類案の作成と、賞与・納税・設備投資などに見落としがないかの点検です。残高はExcelなどの表計算ソフトで計算し、分類・金額・入出金日・繰越残高は元資料と突き合わせて、人が確認します。
銀行から「資金繰り表を出してください」と言われて、手が止まる。月末の支払いは頭の中では分かっているのに、表の形にするのが億劫だ。そんな社長は少なくありません。
この記事では、AIに渡すメモの作り方、コピーして使えるプロンプト、そしてAIの回答を確認するために手元に置く資料を、順番に説明します。
資金繰り表とは|試算表との違い
試算表が、主にこれまでの取引を会計上の金額でまとめた資料であるのに対し、資金繰り表は、今後の入出金の予定をもとに手元資金の過不足を見る資料です。実績を記録する使い方と、先の見込みを立てる使い方の両方があります。
日本政策金融公庫の資金繰り表では、手元資金の残高を、次の項目を順に足し引きして計算します(出典:日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード」資金繰り表・記入例)。なお実際の様式には、このほかに売上高・前年同月の売上高や、売上高・売上原価・経費等の算出根拠を書く欄もあります。
- 前月繰越金
- 経常収支(現金売上・売掛金回収などの収入 − 仕入・人件費・諸経費などの支出)
- 経常外収支(設備の購入・売却、投資など、通常の営業活動による入出金と分けて把握する収支)
- 財務収支(借入と、借入金の元金返済)
- 差し引いた結果である翌月繰越金
関係を式にすると、次のとおりです。
翌月繰越金 = 前月繰越金 + 経常収支 + 経常外収支 + 財務収支
ここで見落とされやすいのが経常外収支です。これは「本業と無関係な収支」という意味ではありません。製造設備や厨房機器のように本業に必要な設備であっても、日常的な入出金と設備投資を分けて見るために、経常外支出として整理します。経常支出に混ぜてしまうと、本業から生じる経常収支が実態より悪く見えてしまうからです。
資金繰り表で金額や支払月を見落としやすい項目
資金繰り表づくりが進まない主な理由は、中身の難しさよりも、入金と支払いの項目を洗い出す作業の面倒さにあります。最初の一歩が重いのです。
特に見落としやすいのは、毎月同額ではない支払い、納付月が決まっている支払い、契約書や返済予定表を見ないと金額が分からない支払いです。
- 賞与
- 法人税・消費税・源泉所得税などの納税
- 社会保険料
- 保険料・更新料の年払い
- リース料・割賦金
- 設備投資の支払い
なお、資金繰り表の区分は「毎月払うかどうか」だけでは決まりません。賞与や社会保険料は人件費として経常支出に、設備の購入は経常外支出に置くなど、支払いの性質と使用する様式に合わせて分類します。
この「洗い出しと見落としの点検」こそ、生成AIの得意分野です。
ChatGPTで資金繰り表の項目を整理する3つの手順
資金繰り表専用のAIツールは必要ありません。項目の整理にはChatGPTやMicrosoft Copilotなどの生成AIを使い、金額入力と残高計算はExcelなどの表計算ソフトで行います。
手順1:少なくとも3カ月先までの情報を箇条書きで集める
まずは今月末の現金・預金残高と、向こう3カ月の入金・支払予定をメモします。可能であれば6カ月先まで確認してください。売掛金の入金、仕入代金の支払い、給与、家賃、借入金の返済などを挙げ、それぞれ予定日と金額も記載します。金額が未確定の項目は概算で構いませんが、「概算」「未確定」と書き添えておきます。この段階できれいに整理する必要はありません。整理の下書きはAIに任せます。
手順2:次のプロンプトを貼り付け、メモを渡す
あなたは中小企業の資金繰り管理に詳しいアシスタントです。
以下は、当社の今月末時点の残高と、向こう3カ月の入出金予定メモです。
次の5つをお願いします。
1. メモの各項目を次の区分に分類し、月次資金繰り表の項目として
整理してください。
・経常収入(現金売上、売掛金回収など)
・経常支出(仕入、外注費、人件費、諸経費など)
・経常外収入(設備の売却、投資の回収など)
・経常外支出(設備の購入、投資など)
・財務収入(借入)
・財務支出(借入金の元金返済)
2. 借入の返済額に元金と利息が含まれている場合は、分けて扱って
ください。元金の返済は財務支出、利息の支払いは経常支出です。
メモから分けられない場合は、返済予定表で確認するよう
指摘してください。
3. 資金繰り表には「前月繰越金」の欄が必要です。メモに繰越額の
記載がなければ、その旨を指摘してください。
4. 中小企業で計上を見落としやすい支払いのうち、このメモに
見当たらないものを、私への質問の形で挙げてください。
確認したいのは次の項目です。
・賞与
・法人税、消費税、源泉所得税などの納税
・社会保険料
・保険料や更新料の年払い
・リース料、割賦金
・設備投資の支払い
・その他、当社特有の臨時支出
5. 使う様式によって分類が変わり得る項目は、推測で決めずに
「様式確認が必要」と書いてください。
金額の集計、残高の計算、融資可否の判断はしないでください。
分類と、見落としの指摘だけをお願いします。
なお、取引先名などの実名は伏せて記載しています。
【予定メモ】
・今月末の現金・預金残高 約○○万円
・A社からの入金 15日 約300万円
・B社への仕入代金支払い 末日 約120万円
(以下、手元のメモをそのまま貼り付け)
手順3:AIの質問に答えて項目を補い、計算はExcelで行う
返ってくるのは、たとえばこんな対話です。
AI:賞与の支払い予定が見当たりません。支給月と概算額を教えてください。
社長:7月と12月です。7月は約250万円。
AI:7月の経常支出(人件費)に項目候補として追加します。金額と支払日は、賞与額と支給日の確定後に更新してください。
このやりとりを何度か重ねると、資金繰り表の初版を作るための項目候補が整理できます。ただし、AIの質問だけで自社の支払いを網羅できるわけではありません。契約書に記載された支払条件、返済予定表、締め日から支払日までの期間である「支払サイト」などと照らし合わせ、不足している項目は自社で補ってください。
AIに任せてはいけない3つのこと
第一に、生成AIが示した計算結果を、残高の確定値として扱わないこと。
プロンプトにわざわざ「計算するな」と書いたのには理由があります。生成AIは文章づくりが得意な一方、足し算や残高の繰り越しを平然と間違えることがあります。資金繰り表の計算ミスは、そのまま資金ショートの見落としにつながります。
計算は、Excelなどの表計算ソフトに数式を設定して行います。ただし、Excelを使えば自動的に正しくなるわけではありません。まず、前月の「翌月繰越金」と当月の「前月繰越金」が一致しているかを確認します。前月分を実績に更新した後は、その「翌月繰越金」が前月末の実際の現金・預金残高と合っているかも確かめてください。数式の参照範囲と符号が正しいかどうかも、自分の目で見ておきます。
第二に、会社が認めていない環境に機密情報を入れないこと。
取引先名や銀行名は「A社」「B銀行」に置き換えてから貼り付けます。ただし、実名を消しても、金額や取引条件の組み合わせから相手が推測できてしまう場合があります。必要以上の情報は入れないでください。
入力したデータが保存されるか、学習に使われるかは、無料か有料かだけで決まるものではありません。利用するサービス、契約プラン、管理者の設定によって扱いが異なります。貼り付ける前に、使っているサービスの設定と社内のルールを確認してください。
第三に、元資料との照合を省かないこと。
AIが挙げる「見落としやすい項目」は点検の候補であって、網羅ではありません。自社特有の支払い、たとえば設備の割賦や取引先ごとの支払サイトの違いまでは、AIには分かりません。AIの出力内容は、利用する経営者が責任を持って確認する必要があります。
資金繰り表を作った後に確認する資料
作成した資金繰り表をそのまま正しいものとせず、次の資料と突き合わせてください。
- 前月末の現金・預金残高(現金出納帳、通帳、ネットバンキングの残高画面など)
- 売掛金の入金予定
- 買掛金・未払金・外注費の支払予定
- 借入金の返済予定表(元金と利息の内訳)
- 納税予定(法人税・消費税・源泉所得税など)
- 給与・賞与・社会保険料の予定
- リース・割賦・保険契約の支払時期
- 設備投資の計画と支払条件
作業の分担を整理すると、次のようになります。
| AIに下書きさせること | 人が確認・決定すること |
|---|---|
| 入出金項目の分類案 | 自社や金融機関の様式に合った分類 |
| 見落としを確認するための質問 | 自社特有の支払いの有無 |
| 項目名の整理案 | 金額・入出金日・支払サイト |
| 確認リスト | 繰越残高の連続性と数式の正しさ |
| 一般的な注意点 | 融資・投資・支払いに関する最終判断 |
会計科目の判断や税務処理で迷う項目は、顧問税理士にご確認ください。借入の条件は金融機関に確認するのが確実です。
なお、過去の数字(試算表)をAIに読ませるときの注意点は、別の記事にまとめています。あわせてどうぞ。
→ 試算表をAI・ChatGPTで分析する方法と注意点
表ができても、判断は別の作業です
資金繰り表は、一度作って終わりの書類ではありません。毎月更新し、実績と見込みを入れ替えて初めて役に立ちます。AIに下ごしらえを任せれば、初めて作るときも毎月更新するときも、作業の負担を減らせます。
ただし、資金繰り表の目的は、表を完成させることではありません。まず、どの月に、いくら資金が不足しそうかを把握します。そのうえで、入金・支払条件を見直すか、設備投資や採用に踏み切るか、いつ、いくらの融資を相談するかを、資金が足りなくなる前に判断することが目的です。
AIに任せるのは、分類と点検の下書きまでです。計算と判断は、人が担ってください。
よくある質問
Q. 資金繰り表を作るのに、専用のAIツールは必要ですか。
必要ありません。ChatGPTやMicrosoft Copilotなど、普段使いの生成AIで下ごしらえ(分類と見落としの点検)はできます。仕上げの金額入力と残高計算は、Excelなどの表計算ソフトで行ってください。
Q. 会社の数字をAIに入力しても大丈夫ですか。
取引先名や銀行名は「A社」「B銀行」に置き換えてから貼り付けてください。入力データの保存や学習利用の扱いは、サービス・契約プラン・管理者設定によって異なります。貼り付ける前に、設定と社内ルールをご確認ください。
Q. 資金繰り表と試算表は何が違うのですか。
試算表は、主にこれまでの取引を会計上の金額でまとめた資料です。資金繰り表は、今後の入出金の予定をもとに手元資金の過不足を見る資料です。目的が違うため、両方を並べて見ると判断がしやすくなります。
Q. 資金繰り表は何カ月先まで作ればよいですか。
まずは3カ月先まで作り、可能であれば6カ月程度まで見通せると安心です。何カ月が正解と決まっているわけではなく、賞与・納税・設備投資など毎月ではない支払いが入る月まで確認できているかが目安になります。金融機関から様式や期間の指定がある場合は、それに合わせてください。
Q. 借入の返済額は、どの区分に入れればよいですか。
元金の返済は財務支出、利息の支払いは経常支出に分けて入れます。口座から引き落とされる金額に両方が含まれていることがあるため、返済予定表で内訳を確認してください。分けずに全額を財務支出にすると、本業から生じる経常収支が実態より良く見えてしまいます。
Q. 銀行へ提出する資金繰り表もAIで作れますか。
項目の洗い出しや下書きには使えます。ただし、金融機関が指定する様式や、確認したい項目に合わせる作業は人が行ってください。金融機関は返済原資だけでなく、資金が不足する時期と金額、借入の必要性、調達後の資金残高なども確認します。
資金繰り表を作った後の「次の判断」を整理しませんか
表を作ってみたものの、
- 数字の置き方が合っているか不安
- 納税や借入返済を入れると残高が足りない
- 3カ月先の資金は見えたが、何から手を打つべきか分からない
- 試算表と資金繰り表をどう結びつけて見ればよいか分からない
という場合は、初回30分の無料相談をご利用ください。オンラインで、現在の状況と迷っている判断をうかがいます。初回は決算書や資金繰り表などの資料が手元になくても構いません。
状況に応じて、次の支援をご案内します。
- 経営健康診断 — 決算書・試算表・借入状況などをもとに、会社の現在地、改善余地、優先課題をスポットで整理します。
- 経営定期健診 — 月次の試算表や資金繰りを確認しながら、融資・設備投資・採用・価格交渉といった打ち手を、毎月一緒に決めていきます。
この記事を書いた人
日置 尚義(ひおき なおよし)|RMCビジネスラボ代表。中小企業診断士・認定経営革新等支援機関。製造業・飲食業・小売業・BtoBサービス業の中小企業を対象に、決算書・試算表・資金繰り・事業計画を整理し、設備投資・融資・価格交渉などの経営判断につなげる支援を行っています。
